データガバナンスの基本

― 実践でつまずかないための要諦とTips ―

はじめに:データガバナンスとは

「データガバナンス」という言葉は近年急速に広まりましたが、その定義は組織によって微妙に異なります。ただ共通していることは、単なるデータの整理活動ではなく、企業がデータという資産を、素早く・効果的に・安全にビジネス活用できる状態を作るための全社横断の取り組みであるという点です。

似た言葉に「データマネジメント」がありますが、両者は異なります。データマネジメントは、データの収集・蓄積・活用・設計・運用保守といった実行作業そのものを指します。一方でデータガバナンスは、その実行作業に対して経営・ビジネスの視点から方針・プロセス・ルール・体制を定め、監視・評価・支援する統治機能です。現場が個別最適でデータを扱う状態から脱却し、全社最適でデータをコントロールできる状態に引き上げること、それがデータガバナンスです。

なぜ今、データガバナンスが求められるのでしょうか。AI活用やDXが進むほど、各部門が個別にデータを収集・蓄積・活用(外部への提供や委託を含む)するようになります。加えて、自社の保有するデータを取り扱う担当者が(管理者以外もしくは自社以外にも)多様に広がる中で、これまで通りの属人的な運用を続けていると誤ったデータの取り扱いによって法令違反やインシデントを誘発し、企業の信頼を損なうリスクも高まります。データガバナンスは、こうした「攻め」と「守り」の両面から企業のデータ活用を支える取り組みです。

本稿では、データガバナンスの実践において、発生しがちな課題や対策について解説します。

データガバナンスの要諦

データガバナンスを構築する上で押さえておくべき要諦は、大きく3つに整理できます。

(1)データライフサイクルに沿って考える

データの「収集」段階では利用目的の特定や通知、適正な取得、データの取り扱い運用方針、「保管」段階ではデータの品質やセキュリティ運用ルール・セキュリティ対策、「活用」段階ではデータの取り扱い内容やアクセス権限、提供(第三者提供、委託)ルールなど、データの処理プロセスごとに検討すべき論点は異なります。データライフサイクル全体を俯瞰せずに一部分だけを整備した場合、抜け漏れが生じやすくなります。

(2)データ活用の企画・構想段階から早期に組み込む

データガバナンスは、事業やサービス、システムを本格的に開発し始めた後に後追いで整備しようとすると途端に難易度が上がり、プロジェクト進行の鈍化や手戻り、検討廃止の可能性を高めます。企画段階から収集・保管・活用の方針を固めておくことで、後々のプロジェクトの進行スピードを早め、自由度や安全性を高めることができます。

(3)部門横断の専門組織・体制を持つ

データガバナンスの実現には、自社のデータビジネスに関する知識に加えて、データ管理基盤、データ品質、法規制、セキュリティ、プライバシーといった多岐にわたる専門性が求められます。一つの部門だけでこれらの人材を揃えるのは現実的ではないため、知見を持つ人材を集めた横断組織やバーチャルチームを組成し、経営も巻き込みながら柔軟に連携して推進する体制づくりが不可欠です。

データガバナンスの実践における躓きポイント

理屈としては理解されやすいデータガバナンスですが、いざ実践しようと思うといくつかの壁にぶつかります。

(1)旗振り役が不在

データ活用は事業部門、データ管理は情報システム・セキュリティ部門、プライバシー保護は法務・コンプライアンス部門というように、関係する部門が分散しているため、当事者意識を持って全体を推進する主体が生まれにくいです。

(2)ルールを作って満足

ポリシーやルール、台帳を整備しても、実際の業務フローに組み込まれなければ形骸化します。特に個人情報・情報資産台帳やリスクアセスメント運用は、一度形づくった後の更新・管理・維持が滞りがちで、気づけば実態と乖離したドキュメントだけが残るという事態が発生します。

    (3)攻めと守りのバランスの崩れ

    ガバナンスを厳格にしすぎるとデータ活用のスピードが失われ、現場から反発が起きます。逆に緩めすぎるとリスク管理が形骸化し、インシデントを誘発します。このバランスを取ることの難しさが、ガバナンス推進の停滞を招きます。

    データガバナンスの実践におけるTips

    上述の躓きポイントを踏まえ、データガバナンスをスムーズに実践するためのポイントを紹介します。

    (1)スモールスタート

    関係部署に協力を取り付けたうえで、まずは最低限遵守すべきルール(法令や自社のセキュリティ運用ルールなど)を整備し、既存の台帳や個別案件に対してそのルールを適用させてリスクアセスメントを実施します。平行して、関係部署とのコミュニケーションルールの具体化を進めます。

    その新たな運用については、全社一斉に導入を進めるのではなく、特定の部門や業務から着手し、小さくも確実な成果を関係者と経営で実感することで、次のステップへの推進力を得やすくなります。

    (2)仕組み化

    ルールや台帳は作って終わりではなく、予め組織体制や業務運用、システムの変更が生じる可能性を想定したうえで、なるべくツールや業務プロセスに落とし込んで仕組み化することが重要です。人の意思や記憶、手作業に頼った運用はいずれ破綻する可能性が高いです。

    (3)専門知識の民主化

    上述に関連して、専門知識はなるべくツールや業務プロセスに落とし込んで、属人化を防ぐことも重要です。担当者個人のスキルに依存する部分を減らし、誰が担当しても一定の品質でガバナンス活動を継続できる状態が、長期的な運用負荷の軽減につながります。

    (4)規制動向の先取り

    個人情報保護法やAI関連の法規制・ガイドラインなど、データを取り巻く規制は年々アップデートされています。最低限の対応に留まるのではなく、変化を前提とした柔軟な運用体制を構築しておくことで、後手に回るリスクを減らすことができます。

    おわりに:データガバナンス ≒ 継続的な可視化活動

    データガバナンスは、ポリシー/ルールなどの文書や台帳などのツール、データ活用状況の管理を一貫して継続的に行う活動です。一度整備すれば終わりではなく、事業内容や法規制の変化に合わせて継続的にアップデートすることに加え、誰が見ても共通の理解ができる仕組みにしておく必要があります。

    完璧な運用ルールや運営体制を最初から目指すのではなく、小さな一歩から着実に前進させていくことが、実践を成功させる近道ではないでしょうか。

    参考資料

    独立行政法人情報処理推進機構「信頼できるパートナーになるためのデータガバナンス読本」https://www.ipa.go.jp/digital/data/f55m8k0000005msd-att/dsa004-data-governance-guidebook.pdf


    本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。個別の判断は自社の取扱実態に応じて、社内法務・専門家・所管当局にご確認ください。